夏が始まる。
『青と夏』
恋の歌だ。
そう思った。
高校生。
キラキラした弾ける青春。
汗が、若さが、まぶしい。
うらやましいと思った。
僕は高校時代にあまりいい思い出がない。
進学校でまわりには頭がいいやつがゴロゴロしていて、上には上がいるということを思い知った。
勉強が難しくて、まったくついていけなくなった。
楽しかったのは世界史だけ。
理系科目は赤点をとらないことが目標だった。
授業中は窓の外をぼーっと眺めていることが多かった。
ラブホテルが見える。どんな人が行くんだろう。
そんなことを考えていた。
友だち付き合いもあまり深くならなかった。
あの頃、誰と何を話していたのか、ほとんど思い出せない。
笑っていたような気もするけど、無表情でいたような気もする。
いつも、なじめない感じを抱えていたんだろう。
卒業アルバムで登場している写真は1枚だけ。
今も付き合いがある友人はいない。
だから、暗黒時代だとすら思っていた。
でも、よくよく記憶をさかのぼってみると、僕にも青い高校生活の日々はあった。
勉強。
一人の先生との出会いで歴史が好きになった。
喜びも悲しみもすべてがそこにあった。
連綿と続く人の営みが今につながっていることを知った。
バスケ。
リズミカルに響くドリブルの音。
ボールがゴールに吸い込まれる快感。
汗くさい部室のにおい。
恋。
想いを伝え、届かなかったこと。
想いを伝えられ、応えられなかったこと。
一生懸命に生きていた。
ふと、思った。
『青と夏』
これは、若者の歌だろうか。
ぼくは今、恋をしているだろうか。
恋とは、好きだということだ。
それ以外には考えられない。
いてもたってもいられない。
それがあれば幸せ。
暗黒時代だと思っていたあの頃のぼくにも、たしかに好きなものはあったし、それがあれば幸せだった。
ぼくは今、何が好きなのだろうか。
今まで体験したことがないような夏。
先が見えない感染症。
殺人的な暑さ。
きっとやってくる自然災害。
あまり明るい感じはしないけれど、それでも、生きていかなければならない。
「昨日までの当たり前が、一瞬で壊れることを知った」
それならば、今を大事にして、何かに「恋」をして、精一杯できることをやってみたらいいんじゃないか。
さあ、何をしようか。
夏が始まる。
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