ろぎおについて

いろいろしんどいのだけれども 竹村俊助『書くのがしんどい』

書籍・マンガ
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最近、階段をのぼるのがしんどいんです。

 

健康のためにと思って、駅ではエレベーターやエスカレーターを使わずに、できるだけ階段を使うようにしていますが、8段くらいのぼったところで

 

「やっぱりやめておけばよかった」

 

と思います。

 

ぼくの家は4階建てマンションの2階で、エレベーターがないので、毎日階段をのぼりおりしています。仕事帰りでくたびれている時などは

 

「あぁ、エレベーターがあったらなあ」

 

と思います。

 

これだけ階段がしんどいのは、年齢のせいもあるし、運動不足のせいでもあるのですが、加齢には逆らえないから、これは仕方がありません。

 

ならば、日ごろから運動をしてカラダを鍛えればいいのですけど、それはそれでしんどいんですよね。

 

ちなみにこの文章を書いているのは、真夏の8月。

 

灼熱の太陽の下で運動をするなんて、考えただけでも恐ろしくなります。汗はかくし、消耗するし。熱中症の心配もあって、もはや自殺行為です。

 

それなら朝の涼しい時間にウォーキングなんてことを考えなくもないですが、ぼくにとっては早起きすること自体がしんどいわけで、これもなかなかハードルが高い。

 

そんな言い訳ばかりを繰り返しているので、体力や筋力が劇的にアップするわけもなく、

 

「しんどいなぁ」

 

と思いながら、いつも階段をのぼっています。

 

 

ところで先日、少し時間が空いたので、本屋に入りました。

 

そこで1冊の本に目がとまります。

 

『書くのがしんどい』

 

確かにそうね。

 

 

 

気付いたらお会計をして店を出ていました。

 

著者は編集者の竹村俊助氏。

 

2019年に最も読まれたビジネス書『メモの魔力』(前田裕二)を世に送り出したヒットメーカーで、これ以外にも数々のヒット作があります。

 

そんな竹村氏、じつはもともと書くのが苦手で、書くのがしんどいと思っていたのだそうです。で、その原因を分析し、克服する過程で得た知見をまとめたのが、今回購入した『書くのがしんどい』です。

 

帯にはなんとも刺激的な文字が踊ります。

 

「そんなあなたが書けちゃうんです!」
「たった5分でバシッと伝わる」
「新しい時代の文章術の決定版!!」

 

書くのがしんどいと感じている人にとって、これほど魅力的な誘い文句はないですね。

 

人間は「快楽を求める」よりも、「苦痛から逃れる」ことの方が優先順位が高いといいます。

 

書くしんどさから逃れたい

わたしでも書けちゃうの?!

 

苦痛そのものであるタイトルと、甘い快楽の帯を見たら、本を手に取りレジに向かうのは、もはや自然な流れでした(言い訳)。

 

 

編集者というのは、いわば書かせるプロです。

 

書いてほしい相手に企画を提案し、説得し、叱咤激励しながら、二人三脚で本を編む。

 

本書の魅力は、その「他者に書かせるスキル」を「自分で書く」ことに転用し、しんどくなく書ける方法に落とし込んでいるところです。

 

たとえば、ネタの出し方、文章の削り方、執筆の続け方あたりに、編集者ならではの視点とノウハウが盛り込まれています。

 

しかもそれが、きちんと誰にでもできるレベルにまで落とし込まれているので「そんなあなたが書けちゃうんです!」ということになるのです。

 

 

ただ、ここで気を付けなければならないことがあります。

 

それは、そうは言っても

 

「書くのはしんどい」

 

ということ。

 

しんどいという言葉を辞書で引くと、次のように書いてあります。

 

 

( 形 )〔「しんど」の形容詞化。主に関西地方で用いる〕
 骨が折れる。つらい。くたびれる。

(三省堂『大辞林』第三版)

 

 

本書の製作には、約1年の歳月がかかっているそうです。

 

この1冊の本のために、アイデアを出し、整理し、構成を考え、執筆し、何度も何度も書き直す。

 

これのどこが楽で簡単なのでしょう。

どう考えても、骨が折れるし、くたびれる。

決して片手間ではありません。

 

それでも筆者には、伝えたいサムシングがあった。

そして、ありったけの情熱を込めることに、最大限の時間と労力をかけたはずです。

 

だからこそ、この文章は本になり、ぼくの手元に届いている。

 

伝わる力は、この「しんどい」に比例するのではないかと思います。

 

もしかしたら、本人はしんどいとは感じていないかもしれません。

けれど、傍から見たら「それはしんどい」というくらいの労力が割かれずに世に出た本などないはずです。

 

ぼくは本書の筆者は、とても正直な人だと思います。

 

本書を手にした人は、帯を外してみてください。

 

 

そう、やっぱりしんどいんですよ。

 

帯では、本文では

 

「書くことはしんどくないよ」

「書くことが楽しくなるよ」

 

とは言いつつも、表紙で堂々と言ってます。

 

「書くのがしんどい」と。

 

あと、編集者という肩書にも注目です。

 

ぼくはここに、編集者としてのプライドと、書き手としてはまだ何も成し遂げていないという謙虚さを感じます。

 

真実と謙虚さを、シンプルに包み隠さず表現した表紙が、ぼくは好きです。

 

 

そういえば、ぼくは登山で、子供を連れてよく高尾山に登りに行きます。

 

いくつかある登山道のうち、稲荷山コースがお気に入りで、登りはだいたいそこをのぼるのですが、1時間半くらいの登山の最後に「心臓破りの階段」が待っています。

 

 

つらい。

 

 

しんどい。

 

 

それでも、なんとか登り切って山頂にたどり着くと、すばらしい景色が待っています。

 

これね、書くことも一緒なんじゃないかと思います。

 

いくら本書を手にしたからといって、魔法が使えるように文章がうまくなるわけではありません。この手の本を読むと、すぐに書けるようになると思いがちですが、そんなわけないです。

 

書いてあることを一つ一つ咀嚼し、実践することでしか上達はない。

 

しかも、それなりの文章を書こうと思ったら、書くことは孤独な作業です。

 

 

ちなみに本書には「ライティングは孤独な作業……ではない」という記述があります(p256)。

 

SNSを使って、みんなで文章を作りあげていってもいいと、あたらしいライティングの形が提唱されていましてね。

 

長い文章を書かなくていい

立派な文章を書かなくていい

一人で書かなくていい

 

しなくていいのオンパレード。

確かにそれならハードルは低そうです。

実践することも難しくないでしょう。

 

でも、それだけでいいのでしょうか。

 

書くことを続けていると、「欲」が必ず出てきます。

うまく書きたい、たくさん読まれたい、有名になりたい、etc…

 

そんな気持ちを抱えた時、いくらSNSでのつながりに助けられたり、ヒントをもらったとしても、やっぱり自分と向き合ったところにしか本当の答えはないんじゃないですかね。

 

何を伝えたいのか

どうして伝えたいのか

その結果がどうであって欲しいのか

 

最後は自分で始末をつけるしかないわけです。

 

であれば、孤独のうちに生まれる文章にこそ価値がある、とぼくは思うのです。

 

 

だからこそ

 

書くことは、しんどい。

 

でも、

 

書くことで、成長できるのは楽しい。

 

 

書くことを探求し、書くことで成長し、書くことで世界を広げたい人なら、階段をのぼる意味は大いにあります。

 

 

あ、本書を手にすれば、1段飛ばしくらいは、実現できるかもしれませんよ!

 

 

 

 

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