ろぎおについて

親父のげんこつ

よもやまばなし
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圧倒的に優等生でした、僕。

 

なんて嫌なヤツだと思われますよね。

でも、本当なので仕方ないです。

 

小学生の頃は、通知表で「よくできました」以外を取った記憶がありません。

 

3段階評価で一番左の「よくできました」にずらっとマルがならんでいるのが当たり前でした。

 

そんな僕ですから、学級委員長になるのも当たり前。

当時の僕は何をやらせても、先生の期待に応える生徒でした。

 

4年生の時、「なるほど・ザ・ワールド」という番組が、僕の小学校に来たことがあります。

しかも、僕のいる教室に!

 

取材の内容は、その年が暖冬で、前年といろいろ違いがあるというもの。

番組的に撮りたい絵は、卒業式などでよくあるコールアンドレスポンスみたいなやつ。

 

生徒A : 「楽しかった修学旅行」

全員 : 「修学旅行!!」

 

あったでしょ、こういうの。

 

ディレクターが担任の先生に相談して、呼ばれたのは、もちろん僕です。

その場で枕になるセリフを教わり、テスト1回。

 

本番は・・・もちろん、1発OK!

 

放送ではカットされずにちゃんと使われていました。

 

いきなり僕のどアップ。

 

ろぎお:「去年の学級閉鎖は〇〇クラスありましたが…」

 

そこから一気にズームアウト!

 

全員:「今年は全然ありませんッ!」

 

自分の顔が画面いっぱいに広がり、うれしはずかしこむら返り。

ふくらはぎを思いがけずツったときみたいに、なんとも言えない気持ちになりました。

 

と、大事なのは、僕の気持ちではありません。

 

いついかなる時も、白羽の矢が立つのは僕ということ。

 

 

学年をかさねるに連れ、僕に吹く期待の風は、ますます強くなっていきます。

 

もっと大きなスケールで働きたい!

 

小学生ですから、僕自身はそんなこと微塵も思ってはいないのですが、まわりが何もしない僕を許してくれませんでした。

 

「ろぎお、選挙出るんだろ」

 

担任の先生からそう言われたら、当時の僕に断る選択肢はありませんでした。

児童会では5年生で副会長、6年生で児童会長を歴任。

 

先日、子どもの頃からお世話になっている床屋さんでのこと。

ここの大将は僕の中学時代の剣道部の先輩で、小学校も一緒。

 

その妹さんが理容師修行から戻ってきている話は聞いていましたが、たまたまこの日、大将のアシスタントをされていました。

 

「いもうとー、お前、ろぎおくん知ってるんだっけ?」

「知ってるよ!児童会長やってましたよね?」

「えーっ!なぜそれを、、、」

「だって、選挙とかで演説してたのとか、覚えてますもん」

「確かにやってた」

「あと、校長先生のお葬式の時も・・・」

 

えぇ、そうです。

 

僕、小学生にして、弔辞を読んだことがあります。

 

毎朝、校門のところに立って「おはよう!」と挨拶をすることを欠かさず、みんなに慕われていた校長先生が、ある日急逝しました。

 

その葬儀でお別れの言葉を読むという大役を任される児童会長。

 

僕はそんな、30年ぶりに会う人の記憶にも残っているような、デキる小学生だったのです。

 

 

しかし、ただ優等生だったのかというと、そういうわけではありません。

イタズラや悪さも、いろいろやらかしました。

 

話が長くなるので、ここでは書きませんけど、まぁ、いろいろと。

 

で、それが明るみに出るたびに、母親から静かに言われます。

 

「ちょっと、お父さんの前に座りなさい」

 

僕の親父はいわゆる「昭和の男」でした。

 

基本的に無口。

 

母と結婚する前は、酒を飲む、博打を打つ、そしてケンカっ早い人だったそうです。

建築関係の仕事だったので、現場の職人さんたちと一緒にいるわけですが、この辺りの方々は良くも悪くも血の気が多い。

さらに九州男児とくれば、義理人情に厚く、曲がったことは大嫌い。

 

ケンカで警察のお世話になり、会社の上司に迎えに来てもらうような人でした。

 

そんな親父の前で、正座待機。

 

もう生きた心地がしません。

 

ただ、そこは無口な人。

ごちゃごちゃ言うことはせず、最低限のことだけを聞き、そして一撃。

 

ごつッ

 

僕の石頭にも響く、重い重いげんこつを置き、ひとことだけ。

 

「もう、すんじゃねーぞ」

 

これで話は終わりというのがパターンでした。

 

 

 

中学に上がっても、まだ、かろうじて優等生のポジションはキープしていました。

 

成績は250人の中で常時10番以内。

いつもではありませんが、1番のことも何度もありました。

剣道部では1年生のエース、3年生では主将を務め、スポーツ推薦で高校進学という選択肢もありました。

 

生徒会にも推されましたが、そこは辞退。

部活が忙しく、あまりそこに時間を費やすことに意味も感じなかったためです。

そのかわり、学級委員長は3年間やり続けました。

 

 

そんな優等生でも、あいかわらず悪さもします。

親が呼び出しを受けるような事案もありました。

一つくらい披露しましょうか。

 

集団で競馬をやっていて、馬券を買いに行く担当のやつが駅で先生に出くわし、芋づる式に一斉摘発にあった事件。

 

通常の保護者会の後、該当生徒の親は全員呼び出しです。

 

そして、学校から帰った母親に言われます。

 

「ちょっと、お父さんの前に座りなさい」

 

正座待機。

 

事情聴取。

 

親父はまた一言だけ。

 

 

「博打はテメエで稼いだ金でやれ」

 

 

ごつッ

 

 

僕は14歳で競馬から足を洗いました。

オグリキャップの引退とともに。

 

 

でも、優等生だったのは、ここまで。

 

高校は進学校で、上には上がいる、いくらでも優秀な人間がいるということを思い知らされます。

一浪の末、大学に入学するも、バイトにあけくれ、単位ギリギリで何とか卒業。

 

それまでの栄光が嘘のように、底辺スレスレを低空飛行する人生に一転しました。

 

就職戦線を何とか乗り切り、某外資系企業に潜り込みますが、ここでもセールスの難しさにぶち当たります。

 

 

俺には向いてない。

 

 

もっと、自分を生かせる場所がある。

 

 

今思えば、逃げているだけですが、当時は自分と向き合うこともできず、隣の青い芝生を血眼になって探しているような状態でした。

 

 

そう、僕は優等生から劣等生になっていました。

 

 

そんな、27才の夏。

 

 

親父が癌になりました。

余命3ヶ月。

 

毎日のように、病院に立ち寄って帰るようになったある日、僕は仕事でミスをしました。

そして、社会人になってはじめて、親父に愚痴をこぼしました。

 

親父は、不甲斐ない息子を持ち、でも、叱り飛ばす気力もないことを悔いていました。

ベッドの上にあぐらをかき、

 

「情けねぇよ」

 

とつぶやきました。

 

それが僕に向けられたものなのか、親父自身に向けられたものなのか。

それはいまだにわかりません。

 

 

ごつッ

 

 

僕は親父のげんこつを待っていたのかもしれません。

でも、

げんこつはもうありませんでした。

 

8月の暑い日。

親父は旅立ちました。

2ヶ月半の短い闘病生活でした。

 

 

 

今、僕には息子がいます。

僕と違い、お世辞にも勉強ができるとは言えません。

テストで0点を取る人にはじめて会いました。

本人はケロッとしています。

 

「のび太と同じだ、ヘヘッ」

 

いやいや、ヘヘッ、じゃねぇだろ。

 

でも、人を惹きつける不思議な力があるみたいです。

 

良くも悪くも目立つので、学校中の人が知っている有名人。

先生たちはもちろん、上級生や下級生などからも知られています。

そして、友だちがたくさんいて、いろいろな子と遊んでいます。

 

そういえば、保育園を卒園した後も、妹のお迎えなどで連れて行くと、年長や年中の子が息子のところに集まってきていました。

 

勉強ができる優等生には程遠いけど、まわりの人に恵まれる才能があるようです。

 

それと、とにかく元気で活発、好奇心旺盛で、気になることがあったら、考えるよりも体が先に動くタイプ。

 

それゆえ、失敗も多いし、出来心でやったことが、大ごとになることも多いです。

 

やっちゃいけないと言われても、やらかします。

 

そんな時、僕は息子と話をして、最後に一発くれてやります。

 

 

ごつッ

 

 

重い重いげんこつを。

 

 

今は、体罰はよくないという世の中です。

もちろん、過剰な苦痛を与えるのはもってのほかだし、心理的ストレスが与える影響というのも知っています。

 

でも、確かにあるんです。

 

僕の石頭に残る、親父のげんこつの感触。

 

決して、ストレスなんかじゃない。

親父とのつながりです。

 

僕は息子に“げんこつのぬくもり”を残したい。

 

想い想いのげんこつを。

 

 

最近、僕が子どものころ親父に言っていたセリフを、息子が言うようになりました。

 

 

「へっへー、オレの石頭には効かないよー」

 

 

とびきりのげんこつをくれてやる。

 

息子よ

 

覚悟しとけ。

 

 

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